'''ワープ'''('''ワープ航法'''、warp drive) とはSFに登場する超光速航法の一つである。'''スペース・ワープ航法'''と呼ぶこともあり、直訳すれば「'''宇宙空間歪曲航法'''」ということになる。メキシコの物理学者のアルクビエレが具体的な論文を発表して以後それを基にたびたび論文が発表され、物理学界の片隅で今なお議論が行われているテーマである。日本ではアニメ『宇宙戦艦ヤマト』のヒットで良く知られるようになったが、アメリカなどでは『スタートレック』シリーズで有名になった用語である。なお、「'''ワープ'''」という言葉の指す超光速航法は形態・原理ともに作品間で大きく異なっている。
日本においては「'''ワープ'''」が本来の意味を離れて混同され、あらゆる超光速航法やテレポーテーション(瞬間転移)などの慣性移動的でない特殊な移動手段を指す言葉として、SFファン以外の人々によって使われることが多い。その種類は多岐に渡り、一部は本項でも扱うが全般的な分類や原理の詳細についてはそれぞれの該当項目を参照されたい。
冒頭でも紹介した、本記事のメインとなるAlcubierreのアイデアは、直感的に表現すると船の後方で常に小規模なビッグバンを起こしつつ船の前方で常に小規模なビッグクランチを生じさせ、光より速く船を押し流すような時空の流れを生み出そうというシンプルかつダイナミックなものであった。川にボトルシップを浮かべ、進行させたい方向とは逆である船体後方水面に投石し、流していくようなイメージである。尺取虫の移動イメージにも似ている。
これに対し1997年、タフツ大学のPfenningは「時空歪曲という工程が、宇宙にある全エネルギーの'''100億倍'''のエネルギーを要すため現実ではワープは理論上、実現不可能」という趣旨の論文を発表した。光速を超えるような大きな時空の伸縮は現在知りうる物理学の範囲では、たとえ小規模でもエネルギーがかかりすぎるという結論である。
しかしAlcubierreのワープドライブは数ある超光速航法に関する論文の中でも比較的現実味があり、原案が否定され他にも様々な問題点が見つかった今に至っても改良案や応用案がたびたび議論されている。
ところでAlcubierreのワープドライブは亜空間の泡を用いるスタートレック式のワープを通常の宇宙で既存の物理学理論を用いて試みたものであり、ワームホールや並行宇宙、亜空間や超空間などに触れるものではない(『スタートレック』では亜空間を使用している為、可能になっている)。亜空間や超空間、並行宇宙などは今のところあるかもしれないとしか言えないような空想の産物でしかなく、判明しているないしは事実から予想される範囲の物理的事象を計算を用いて表現する物理学理論に組み込めないからである。Alcubierreのワープドライブは、現在のところ誤差0.1%の精度で検証されている一般相対性理論のみを用いて(あまり大それた仮説は用いずに)考案されている。
とはいえ、Alcubierreの行った議論の帰結はただ漠然と「ワープは物理の原理的には可能であろう」と言っているだけである。さらにこれに対する否定案や改良案は実験的に検証されていない研究中の仮説をいくつも含むものである。つまりここで展開されている議論は、今のところ「現代物理学を用いて記述される超光速航法の雛型案」というテーマのもとで行われる単なる机上の応酬の1つに過ぎない。さらに、このような議論はダイソン球などと同じく物理法則が許す事柄を殆ど実現できてしまう『十分に進歩した宇宙文明』において実現が可能かどうか考察するのが通例である。将来仮にワープの実現性が高まったとしても、よほどのブレイクスルーが無い限りその実験的検証(そして可能とわかればその実用化)はレオナルド・ダ・ヴィンチのノートの中のヘリコプターと同じように遥か遠い未来の出来事となる。1994年、Alcubierreは一般相対性理論の記述形式の一つである3+1形式から出発し、『スタートレック』のワープ航法をヒントにして次のような形の計量(直感的に言えばこの場合は'''時空の歪み方''')を考案した。
{{Indent|
\begin{align}
ds^2 &=g_{\alpha \beta}dx^{\alpha}dx^{\beta},\\
&=-dt^2 + \left[dx - v_{s}(t)f(r_{s}(t))dt \right]^2 + dy^2 + dz^2,\\
\end{align}
f(r_{s})= \frac{\tanh \left( \sigma (r_{s}+R)\right) - \tanh \left( \sigma (r_{s}-R)\right)}{2 \tanh ( \sigma R)},
r_{s}(t)=\sqrt{(x-x_{s}(t))^2 +y^2 +z^2}.
}}
ここにおいて x_{s}(t)\, はワープ計量の中心の位置(すなわちワープ航宙船の位置)、 r_{s}(t)\, はその中心からの距離、 v_{s}(t)=d x_{s}(t)/dt\, はワープ速度、 R\, はワープ計量の半径、 f(r_{s}(t))\, はワープ計量の形状、 \sigma\, は空間伸縮が行われているワープの壁の厚みに関する尺度を、それぞれ表している。上式は万有引力定数および光速度が G=c=1\, の幾何学単位系を用いて記述されている。
なお、 f(r_{s}(t))\, の表式は閉じた因果曲線を描かない、つまりタイムマシンができてしまわないように双曲線関数が選ばれたに過ぎず、基本的には以下の条件
{{Indent|
\lim_{\sigma \rightarrow \infty} f(r_{s}(t))=
\begin{cases}
1, & \mbox{for} \quad r_{s}\in [-R,R],\\
0, & \mbox{otherwise},
\end{cases}
}}
のように、大きな \sigma\, に対して急速に変化するものであれば任意の関数でよい。
このようにして定義された計量の測地線方程式を解くと、このワープバブルが存在する時空中に静止している観測者の4元速度は次のようになる。
{{Indent|\frac{dx^{\mu}}{dt}=u^{\mu}=(1,v_{s}(t)f(r_{s}(t)),0,0),\quad u_{\mu}=(-1,0,0,0).}}
そしてこの計量は以下のような非常に面白い性質を持つ。
一見すると、ワームホールのような特殊な時空構造を導入することなく通常の自然な時空に局所的かつシンプルな変更を加えるだけで作成できる。
宇宙船の固有時間 \tau\, と歪みのないミンコフスキー計量にいる観測者の時間 t\, との間の関係が d\tau=dt\, となる。つまりワープしている観測者と外から見ている観測者との間には時間の差異が存在しない。すなわち静止した状態でワープに突入した宇宙船は、このワープによっていかなるスピードで飛行していようとも'''加速していない'''状態が保たれる。
宇宙船から一定以上離れた後方の空間が極端に膨張し、前方の空間が極端に収縮するような時空が形成される。これがこのワープによる移動の原理であり、宇宙論において'''宇宙の膨張は光速を超えることが許される'''ことをメカニズムの基礎としている。すなわち宇宙船の周囲の平坦な時空をバブル状に切り取って、超光速で伝播する''特殊な時空の波''に乗せて'''サーフィン'''をさせるような原理である。
PfenningとFordの更なる考察によると、バブル中の f(r_{s}(t))\neq 1\, である領域ではバブルの中心から \rho=\sqrt{y^2 + z^2}\, だけ離れるほど速度が不均一となり、バブルの中心に位置する観測者から見て'''バブルの後方へ押し流しバブルの外へはじき出してしまおうとする圧力が生じる'''。また、バブルの外に静止している観測者から見るとバブルに隕石などが衝突した場合、バブルの前面でバブルの移動スピードと同じ速度まで加速されバブルの後面で衝突前と同じ速度まで減速されるため、衝突物体はワープバブルに捕獲された間だけの距離を移動するが'''衝突の前後で運動量は変化しない'''(ただしバブル表面の時空変化は非常に過激であるので、衝突物体はブラックホールに吸い込まれた時のように潮汐力で粉砕される。すなわち、'''宇宙船はワープエンジンも含めなるべくバブルの中心に収まるよう設計されねば破壊されてしまう''')。
静止観測者から見たこの計量を発生させるために必要なエネルギーは、上記の4元速度とアインシュタイン方程式を用いて以下のように計算される。
{{Indent|\langle T^{\mu\nu}u_{\mu}u_{\nu} \rangle =\langle T^{00} \rangle = \frac{1}{8\pi}G^{00} =-\frac{1}{8\pi}\frac{v^2_{s}(t)\rho^2}{4r^2_{s}(t)}\left(\frac{df(r_{s})}{dr_{s}} \right)^2.}}
これはすなわち、通常のエネルギーではありえない負のエネルギー密度である。イメージしやすく換言すれば反発力的な重力を帯びたマイナスの質量である。また、表式中に \rho\, が表れていることから分かるように、これらのエネルギーは宇宙船の進行方向に対して垂直なリング上に最も多く分布する。つまり宇宙船は自分の周囲に生じさせたエキゾチック物質のリングに誘導されるように宇宙を進むことになる。PfenningとFordは量子力学的な制限を考慮に入れつつ上記のエネルギーの数値計算を行った。Pfenning達はまず「弱いエネルギー条件の破れが大きい(大きな負のエネルギーが発生する)ほど、観測者がそれを観測する時間(sampling time)が短くなる」というQuantum Inequality(QI) と呼ばれる条件(つまり一種の不確定性原理)からワープバブルの厚み \Delta\, はきわめて薄くなるだろうと考察し、 f(r_{s}(t))\, を次のように近似した。
{{Indent|f_{p.c.}(r_{s})=
\begin{cases}
1, & r_{s}
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』