'''冠詞'''(かんし)とは、主にインド・ヨーロッパ語族やセム語派において、名詞の前または後に置かれ、定不定を示す限定詞である。
他の限定詞と同様、名詞句の中では一番外側にあるのが普通である。数や性、格が表示される言語では、冠詞はそれらに従って変化することが多い。
しばしば接語であり、また直後の語の発音によって変化することがある。たとえば、次の語の語頭が母音であるときに、次が子音であるときに比べ、母音を省略したり子音を補ったりすることがよく行われる。英語の定冠詞は、次が子音であるときに弱形の発音を持つ。
一部の言語では、前置詞と隣接するとき、前置詞と結合して縮約形となることがある。フランス語では縮約形を持つ組み合わせの時には、必ず縮約形を使わなければならない(例: )が、ドイツ語では意味の違いで使い分ける(例: 通常は だが指示的な場合は のままとする)など、言語によって様々である。
なお、ロシア語やペルシア語のように、インド・ヨーロッパ語族だからといって必ずしも冠詞があるわけではない。冠詞の使い分けは、各言語に共通の傾向はあるが、違いもある。定(文脈上、同定できるもの)を表す名詞の前に置く。
既出のもの。それ。
一つしかないと一般に認知されているもの。太陽(英語 , ドイツ語 , フランス語 )など。
その名詞が表すもの総体。…というもの。
固有名詞の前で使われることがある。英語では普通名詞を固有名詞として用いる場合(例:合衆国 )、複数形の固有名詞の前(例:バハマ )。フランス語では国や川の名前の前、また特定の人名、都市名(例:ル・コルビュジエ )。
形容詞を名詞化する。例えば、英語で は「金持ち」を表す。
様態の付与を行う。例えば"The Nancy I know is really hearty."という文章では「私の知っているナンシーはとても心優しい」というようにあるものに対する話者の様態の意識を示している。
冠詞は単語の前に独立して付けられる言語が多いが、言語によっては、定冠詞は名詞の後ろに付いて、活用語尾のように見える。このような定冠詞を'''後置定冠詞'''と呼ぶ。北ゲルマン語群の他、バルカン言語連合のルーマニア語、ブルガリア語、マケドニア語、アルバニア語に見られる。'''不定冠詞'''は、不定(文脈上、導入されたもの)を表す名詞の前に置く。単数形しかない言語と、単複両形がある言語があり、単数形には一般に、数の 1 を表す単語が用いられる。前者の場合(英語の 、ドイツ語の とその変化形、オランダ語の 等)は、不定の単数の可算名詞の前にのみ置かれて、名詞が複数の場合や不可算名詞の場合には、不定のものを表す名詞の前でも置かれない。後者の場合、例えばフランス語では、単数の可算名詞には単数形 、複数の可算名詞には複数形 が置かれる。
スペイン語、ポルトガル語には、不定冠詞の単数形からアナロジーにより派生した不定冠詞の複数形が存在する。
'''部分冠詞'''は、フランス語、イタリア語などに独特の冠詞で、不可算名詞のための不定冠詞と考えられる。起源的には、部分の属格から発生したもので、そのため属格の前置詞と定冠詞が合わさった形をしている。これは不定冠詞の複数形でも同様である。フランス語の場合は、属格の前置詞 を用いて、不定冠詞の複数形(男女同形)は 、部分冠詞は男性形 、女性形 となる。イタリア語の場合は、属格の前置詞 を用い、不定冠詞の複数形は部分冠詞として扱われる。
これらの言語では、不定冠詞の複数形 + 名詞(複数形)または部分冠詞 + 不可算名詞の形で総称を表現することはできない。例えば、「私はりんごが好きだ」に対応する文は、英語ではりんごを無冠詞の名詞の複数形にする。
しかしフランス語では、不定冠詞 + 名詞(複数形)では総称にはならず、定冠詞 + 名詞(複数形)にしなければならない。
(誤り)
これは、不定冠詞の複数形が部分冠詞と同じく部分の属格に発しているため、不定冠詞の複数形 + 名詞(複数形)の形だと「全てではなくいくつかのりんご」の意味になるからである。同様に、「私はパンが好きだ」に対応する文は、英語ではパンを無冠詞の不可算名詞とする。
しかしフランス語では、部分冠詞 + 不可算名詞では総称にはならず、定冠詞 + 不可算名詞にしなければならない。
(誤り)
冠詞は、総称表現と密接な関係がある。例えば、日本語で「ライオンは危険な動物である。」と言った場合、特殊な文脈でない限り、「ライオンは総じて危険である」という意味をなし、(どの1頭かは特定されないが)あるライオン(だけ)が危険だとか、特定のライオンだけが危険だということは意味しない。ここで、ライオンは可算名詞である。これに対応する文は、不定冠詞の複数形や部分冠詞のない英語では、
(単数不定冠詞、一般的)
(複数無冠詞、日常会話的)
(単数定冠詞、図鑑の解説のような硬い表現)
(複数定冠詞、総称表現としては誤り)
である。この場合、単数不定冠詞においては多数から代表個体を抽出するという性質から、複数無冠詞においては固体全体を集合と見なすという性質から、また単数定冠詞においては定冠詞の抽象性の付与によるある個体と他の個体の間の境界を策定するという性質から総称的意味が現出する。
一方、不定冠詞の複数形や部分冠詞のあるフランス語では、
(単数定冠詞、自然な集合としてのライオン全体)
(複数定冠詞、たまたまそこにある集合としてのライオン)
(単数不定冠詞、例外を許さない強い総称表現)
(複数不定冠詞、総称表現としては誤り)
である。上記の各組の文はそれぞれニュアンスが異なり、いずれも補語の「危険な動物」は不定であり、主語の単数・複数と一致している。不可算名詞の総称表現、例えば、「ビールはアルコール飲料である。」に対応する文は、英語では、
(無冠詞、一般的)
(Beerは不可算名詞なのでtheは付けない)
である。一方、フランス語では、
(定冠詞)
(部分冠詞、誤り)
であり、部分冠詞 + 不可算名詞では総称にならない。不定冠詞は不定の単数の可算名詞に付く。不定の複数の可算名詞や不可算名詞には冠詞が付かない。定冠詞は数や可算性とは無関係に付く。
●定冠詞
(子音の前では普通弱形の発音となる)
英語における定冠詞は標準英文法において原則話者とその対話者間においてある特定の物体を指すときに使われる。しかし、日常生活においてある物体が話者のみに特定されている際の使用傾向も見受けられる。
また、 "the" の物体に対する特定性の付与という性質から、空間としての連続体を切り離しある特定範囲を示す働きが現出する。
この"the"の働きは以下4種に大別される。
● 川、島嶼部等の自然境界を人為的に定義する
例) the Philippines, the Mississippi River, etc.
"Mt. Fuji" 等が "the" による修飾を受けないのは川、島嶼部に比べ連続体としての空間から非連続体として認知しやすい傾向にあることに基づくとされている。
● 大陸などの自然空間を人為的に定義する
例) the United States of America, the United Nations, etc.
● 複数構成単位からなるものをひとつの物体として定義する
例) the Adams, the Simpsons, etc. (アダム一家、シンプソン一家)
● 様態の付与
例) That's not the Tom I know.(あれは私の知っているトムではない) etc.
●不定冠詞
(子音の前)、 (母音の前)不定冠詞は不定の単数の可算名詞に付く。不定の複数の可算名詞や不可算名詞には冠詞が付かない。
●定冠詞
とその変化形(性、数、格に応じて変化する)
●不定冠詞
とその変化形(性、格に応じて変化する)不定冠詞は不定の単数の可算名詞に付く。不定の複数の可算名詞や不可算名詞には冠詞が付かない。
●定冠詞
(通性単数・複数、中性複数)
(中性単数)
定冠詞は指示代名詞 die, dat の弱形に由来する。het は dat の弱形 't を綴り直したもので、人称代名詞の het とは別物である。
●不定冠詞
(数詞の1と綴りが同じため、特に数詞であることを明示するときは één とする)英語と異なり、スペイン語では主語となる名詞には原則的に定冠詞がつく。不定冠詞はその意味を強調するときにのみ使われ、無冠詞は主語では許されない。また、不定冠詞の複数形は「いくつかの」(英語の )と同じように使われることが多い。
●定冠詞
(男性単数)
(男性複数)
(女性単数)
(女性複数)
(中性)
●不定冠詞
(男性単数)
(男性複数)
(女性単数)
(女性複数)
なお、女性名詞でも、 あるいは で始まる単語で、その音節にアクセントが来る場合には、 や が使われる。
例: (水)、 (妖精) cf. (ハバナ)、 (不安)
また、中性形は形容詞を名詞化する際に使われる。
例: (この街のすばらしい点は美食です。)●定冠詞
(男性単数)
(男性複数)
(女性単数)
(女性複数)
●不定冠詞
(男性単数)
(男性複数、綴り注意)
(女性単数)
(女性複数)イタリア語は定冠詞を多用する。たとえば英語の は () という。これは、英語の my が所有限定詞であるのに対し、イタリア語の mio は所有を表す形容詞だからである。
不定冠詞は不定の単数の可算名詞に付く。部分冠詞は不定の不可算名詞または複数の可算名詞に付く。
●定冠詞
(男性単数)
: の前では ただし母音の前では (男性複数)
:母音、 の前では (女性単数)
:母音の前では (女性複数)
●不定冠詞
(男性単数)
: の前では (女性単数)
:母音の前では
●部分冠詞
部分冠詞の語形変化は + 定冠詞と同じである。
(男性不可算)
: の前では ただし母音の前では (男性複数)
:母音、 の前では (女性不可算)
:母音の前では (女性複数)エスペラントでは置くかどうか迷ったときは置かなくてもよい。数、性、格による変化はない。
●定冠詞
**:母音を省略し とできる。詳しくはアポストロフィーを参照。アラビア語の定冠詞には数、性、格による変化はない。名詞に定冠詞がつくと形容詞にも定冠詞をつける。イダーファ構文(所有格を用いた、A の B といった構文)の場合では最後の単語 (A) にのみ定冠詞をつける。不定冠詞は存在しないが、ほとんどの場合不定名詞の最後に n が付加される。
●定冠詞
(al-)
:定冠詞の後に太陽文字がくると太陽文字を促音で発音する。その際に前に名詞がある場合は定冠詞の a が発音されない場合もある。
例
: (kitābun) ある本
: (al-kitābu) その本
: (al-kitābu l-jamīlu) その美しい本
: (as-safīru)その大使( (s) は太陽文字)
: (kitābu s-safīri) その大使の本(イダーファ構文)
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