'''変態'''(へんたい、metamorphosis)とは、動物の正常な生育過程において、ごく短い期間に著しく形態を変えることを表す。昆虫類に典型的なものが見られる。特に、栄養の摂取に特化し、生き残りと成長に最適化された'''幼生'''と、次世代を生み出すための生殖機能を備えた'''成体'''の間で、形態が大きく変わることが多い。それに伴い、生活様式や場所が変化する場合もある。海産無脊椎動物ではよくあるが、成体が底性生活で、幼生がプランクトンの生活をするものは、全て変態を行う。
なお、哺乳類や鳥類、爬虫類のように、基本的な体の構成は変わらず、各部分の発達によってその比が変化する程度で、連続的に形態が変化して成体になる場合には変態とは呼ばない。また、「卵から生まれる」場合には、見かけ上の形態の変化は大きいが、その個体の形は、卵の中であらかじめ形成されており、変態には当たらない。つまり、変態とは、動物が孵化して幼生の形になった後の変化のみに対して用いる言葉である。
エルンスト・ヘッケルは生物の発生は進化の経路を辿るとする反復説をとなえた。この説は、現在では多くの問題を指摘されているものの、基本的にはある程度の範囲で認められている。その意味では、動物が発生の過程で姿を変えるのは当然とも言える。その観点に立てば、変態とは、それが成長の過程に見られる現象という見方もあり得る。つまり、変態をしない動物は、多くの変化を孵化以前に卵の中で行なったものということになる。そこで、変態をしない動物の成長のことを'''直接発生(または直達発生)'''という場合がある。昆虫では、卵から孵化すると、幼虫と呼ばれる形態となる。幼虫が、生殖能力を有する成虫になる過程で変態を行う。ただし、原始的な種類には変態をしないものもある。昆虫類が変態を行うようになった理由は明らかではないが、一説によれば、古生代 石炭紀から二畳紀にかけての気候の悪化へ対応するため、蛹(さなぎ)の段階を経ることによって寒冷期を乗り切るように進化したためであったという。幼虫が成虫になる際、いったん運動能力を著しく欠いた蛹と呼ばれる形態をとり、蛹から脱皮して成虫が現れる。すなわち、
'''卵→(孵化)→幼虫→(蛹化)→蛹→(羽化)→成虫'''
という段階を経るものを'''完全変態'''という。チョウ、ハチ、ハエ、カブトムシなどが該当する。これらは、昆虫類の中でも、二畳紀以降に出現した進化の進んだ種族と考えられる。なお、完全変態をする昆虫の中でシリアゲムシが現生では最も古い群と考えられている。蛹は昆虫類独自の形態で、他の動物には同様の現象は見られない。
完全変態を行う種の幼虫は、成体と全く異なった形態である場合が多い。いわゆるイモムシ型やジムシ型などの幼虫である。これらの形は、複雑な形態である昆虫本来の姿とはかけ離れ、節足動物の原初的な形態に近い、単純な外見を示す。生殖のため配偶者を求めて広範囲を移動するのは成虫に任され、幼虫期はあまり動かず摂食と成長に専念するという特化した生活様式に適応しているとされる。
蛹は、カブトムシ類のように比較的成虫に似た形のものから、ハエ類のように成虫とは似ても似つかないものもあり、様々な形態を取る。蛹は短い糸を出して体を固定したり、長大な糸によって繭(まゆ)を作ってその中に入るものが多い。ほとんどあるいは全く動かず、休眠しているように見えるが、その体内では、幼虫の体を構成していた諸器官が食細胞の働きにより一旦分解され、幼虫期に摂取し備蓄した栄養分を用いて、成虫の体を形作る部位「'''成虫原基'''」を中心に新しく形態形成が行なわれる。
完全変態:アゲハの場合
ファイル:Ageha_yochu01.jpg|幼虫
ファイル:Ageha_yochu02.jpg|幼虫(終齢)
ファイル:Ageha_sanagi.jpg|蛹
ファイル:Cho_ageha 02.jpg|羽化した成虫一方、蛹を経ず、幼虫が直接成虫に変態することを'''不完全変態'''という。昆虫の基本的な変態様式で、この場合の幼虫は、完全変態をするものと区別するため、通常は「'''若虫'''(じゃくちゅう、わかむし)」と呼ばれる。セミ、カマキリ、トンボ、バッタ、ゴキブリなどが代表的な例となる。
不完全変態をする種では、若虫と成虫の形態がよく似ており、若虫期に数回の脱皮を繰り返して成虫に変態することが多い。バッタ、ゴキブリでは、若虫と成虫の外見上の違いは、体の大きさ以外では、翅(羽)が生えているかどうかの程度である。翅は若令の若虫では見られず、脱皮と共に多少大きくなり、成虫になると一気に完全なものになる。
無翅の場合、変態しない種類もいる。ガロアムシ、マントファスマ等が、翅は退化している。
中には、トンボのように形態変化が比較的大きなグループもある。トンボの若虫「ヤゴ」は、水中でエラ呼吸をし、発達した伸縮自在の大顎で捕食生活をするが、成虫は特徴的な腹部を持ち、その姿は大変に異なるものの、大型の複眼を有する頭部の形など、基本的な構造は共通している。
不完全変態:セミの場合(蛹にならない)
ファイル:Graptopsaltria nigrofuscata larva1.jpg|羽化前(土から出る幼虫)
ファイル:Graptopsaltria nigrofuscata larva2.jpg|羽化前(木を登る幼虫)
ファイル:Aburazemi-uka.JPG|羽化中
ファイル:Graptopsaltria nigrofuscata emergence.jpg|羽化直後(成虫)また、幼虫期に生活様式にあわせて形状が著しく変態することを'''過変態''' (Hypermetaboly, hypermetamorphosis) という。ツチハンミョウやネジレバネなどの一部の昆虫が行う。過変態の昆虫は寄生虫であることが多く、幼虫が宿主へ移動するための形態と寄生するための形態に幼虫期で変態する。
なお、'''多変態''' (polymetaboly) という語もある。両者を同一の意味に用いる場合もあるが、厳密には、前者は例えば足のある幼虫から無肢型に変わるというように、体制に変化がある場合を、後者は幼虫の基本体制そのものは変わらないものに対して用いる。このような区分では前者の例はいずれも多変態である。成長過程で形態が殆ど変化せず、脱皮によって大きさだけが変化することを'''無変態'''という。シミ等に良く見られる。多くの節足動物では、成長の過程で体節や付属肢が増加する。
多足類では体節と付属肢が増加するものと増加しないものとがいる。増加する様式を'''増節変態(または改形変態)'''、増加しない様式を'''整形変態'''と呼ぶ。唇脚綱では変態様式によって分類される場合がある(改形類と整形類)。
クモ綱ではダニ類が3対から4対へと付属肢を増加させるが、大部分のものは変態しない。
甲殻類では、分類群によって様々であるが、基本的にははじめにノープリウス幼生を生じる。この幼生は2対の触角と大顎のみを持つ。成長によって次第に体節と付属肢を増やし、それにつれて体型も変化する。分類群、成長段階によって様々な名を付けられている。ノープリウス幼生をとばして、より発達した段階で孵化するものもある。孵化時にすでに成体と同じ姿となる、直接発生を行うものもある。特に、ザリガニやサワガニ、ワラジムシなど、淡水や陸生のものに直接発生を行うものが多い。棘皮動物は、5放射相称の体制を持つが、孵化後しばらく間の幼生は左右相称の体制である。ウニの場合、プルテウス幼生と言われる三角錐の先端を切って、角から突起を出したような姿であり、その後、一時的に海底の固い基盤状に定着し、反対側の端にウニの体が新たに作られるような変態をする。これは、棘皮動物の祖先が左右対称動物であり、固着性になったことで5放射相称の体を獲得した進化の過程があったことを表すものと考えられる。尾索動物のうち、ホヤ類とタリア類は、幼生はオタマジャクシのような外観を持ち遊泳能力を有するが、成体になると変態し海底の岩などに固着する。幼生は脊索を持つが、固着生活に入ると消滅する。硬骨魚類にも幼生時に親とずいぶん異なった姿のものがある。ウナギの幼生は深海で孵化して浅海に出てくるときには平らで柳の葉のような姿であり、これをレプトケファルス幼生という。その後、成体と同じ円筒形の体に変態するが、その際、大きさがずいぶんと小さくなる。
マンボウの幼生は、全身に針があり金平糖やハリセンボンを彷彿とさせる姿をしているが、成長と共に針が失われ、ゆったりと泳ぐ成体に形を変える。
劇的な変化とは言い難いが、ヒラメやカレイの場合、発生時には通常の魚類と同じような形だが、徐々に眼が体の側面に移動し、最終的には眼を上にした平たい形になる。両生類では、幼生はいわゆるオタマジャクシ型をしている。えら呼吸をし、水中生活を行うが、成体は肺呼吸をし、手足が生え、陸上移動が可能な形態となる。これが両生類の変態である。
カエルなどの無尾類では、これに加えて、変態の過程で尾が消失する。サンショウウオの中には、外鰓を残したまま成熟する(ネオテニー)アホロートルなどの種が存在する。
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』