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時間とは
'''時間'''(じかん)は、物事の変化認識するための概念である。芸術哲学自然科学心理学などの重要なテーマとなっている。それぞれの分野で異なった理解のしかたがある。本項目で説明する時間という言葉は、現代の日常においては、互いに似てはいるし強い関連もあるが厳密には異なるいくつかの意味で使われている。
●時刻と時刻の間、またはその長さ。
●時刻。つまり、時の流れの中の一点のこと
●時(とき)そのもの。つまり、過去・現在・未来と流れてゆくものであり、哲学的表現では、空間と共に、認識のまたは物体界の成立のための最も基本的で基礎的な形式をなすものであり「日本国語大辞典-第六版」小学館 2001年6月「広辞苑-第五版」岩波書店 1998年11月「国語辞典-第六版」岩波書店 2000年11月、いっさいの出来事がそこで生起する枠のように考えられているもの「大辞林-第三版」三省堂 2006年10月

時刻の意味で時間という言葉を用いるのは、日常語「国語辞典-第六版」岩波書店 2000年11月、ないし俗語「広辞苑-第五版」岩波書店 1998年11月「日本語大辞典」講談社 1989年11月とする辞書もある。日本語と英語で1の意味の時間を示す表現には例えば、5時間(five hours)、2日(2日間、two days)、4ヶ月(four months)などがあり、2の意味の時間(時刻)を示す表現には例えば、5時(five O'clock)、2日(the second day)、4月(April)などがあり、この二つの意味を区別して表現することが可能である。

1の意味の時間、すなわち時の長さや時間間隔や期間を定める量は、古来より天体の動きをもとに計られ、やがて様々な時計により計られるようになり、現在では国際単位系における基本物理量のひとつとされて世界的に統一された単位が定義され、社会生活や産業活動においてよく使われている。

2の意味の時間すなわち時刻は、基準となる時刻から計った1の意味の時間の長さにより、数値的に表現できる。

3の意味の時間すなわち時(とき)そのものは、日常および哲学においては''流れ''としてとらえられることが多い。例えば時(とき)とは、過去から未来に絶えず移り流れる「国語辞典-第六版」岩波書店 2000年11月ものであり、過去・現在・未来と連続して流れ移ってゆくと考えられ「日本国語大辞典-第六版」小学館 2001年6月、過去・現在・未来と連続して永久に流れてゆくもの「日本語大辞典」講談社 1989年11月であり、過去から未来へと限りなく流れすぎて「大辞林-第三版」三省堂 2006年10月ゆくものである、とされる。流れに速さと向きがあるように、時間にも速さと向きを想定することができ、それぞれ節に分けて解説する。また3の意味の時間をひとつの直線(時間軸)のように固定されたものと捉えれば、我々の方が時間軸に沿って過去から未来へ移動するという捉え方もできる。現在、一般に広く使われている時間の単位としては、時間などがある。さらにある一定の年数を一束にして10年紀世紀千年紀などが使われることもある。このうち、年月日といった日付や週、世紀などは序数となる。

''単位系の違いや測定精度の進歩については項目「時刻」に詳しい。''

歴史的に見ると、これらの時間単位は、天体が見せる周期的な現象(現在の視点で見れば天体の運動)をもとにして決められてきた。例えば、日没の周期や日の出の周期(太陽の見かけの動き、現在で言うところの地球の自転)を元に1日という単位が決められ、太陽の見かけの高度が変化する周期(現在の公転)で1年が決められ、の満ち欠け(現在で言うところの、月の公転)で(太陰暦での)1ヶ月が決められた。現在でも、おおむねその枠組みはとして生き続けている。

後に、長さの決まった振り子の周期が一定であることが発見され、それを用いた時計が開発され、天体に依存しない時間の測定が発達することになった。

また、その時計も、より短い周期で振動するものを採用することで精度を上げる技術革新が続き、技術革新の毎に、以前の時間の計り方は不正確だった、と見なされるようなことが長年に渡り続いた。そしてついには、原子の発する電磁波周波数によって時間を決定する事となった。これが原子時計である。

現代の国際単位系では時間の基本単位としてを定義しており、2006年現在では、「1秒はセシウム133原子(133Cs)の基底状態にある二つの超微細準位間の遷移に対応する放射の 9,192,631,770(約100億)周期にかかる時間」と定義されている。時間については多くの哲学者が様々な考え方を提出して来た。そこで扱われる問題には、次のようなものが含まれる。

  • 時間とは何か

  • 時間が流れるとはどのような事か

  • 時間の流れを我々はどのように知るのか


  • 時間をめぐる考察が厄介である事を示すためにしばしば引用されるアウグスティヌスの有名な言葉に、「私はそれについて尋ねられない時、時間が何かを知っている。尋ねられる時、知らない」というものがある。アウグスティヌスは時間を内面化して考えた。時間はと無関係に外部で流れているようなものではない。過去、現在、未来と時間3つに分けて考えるのが世の常だが、過去はすでにないものであり、未来とはいまだないものである。ならば在ると言えるのは現在だけなのだろうか。過去や未来が在るとすれば、それは過去についての現在と未来についての現在が在るのである。過去についての現在とは記憶であり、未来についての現在とは期待、そして現在についての現在は直観だとアウグスティヌスは述べる。 時間はこのような心の働きである。世界創造以前には何をしていたのかと問う人がいるが、アウグスティヌスによればこの問いは無意味である。なぜなら、時間そのものが神によって造られたものだから、創造以前には時間はなかったのである。神は永遠であり、過ぎ去るものは何もなく、全体が現在にある。カントは時間、空間の直観形式でもって、人間は様々な現象認識すると考えた。カントにおいて経験的な認識は、現象からの刺激をまず外官によって空間的に、内官によって時間的に受け取り、それに純粋悟性概念を適用することによって成立する。空間は外官(外的なものからの刺激を受け取る感覚器官)によって直観され、時間は内官(内的なものの感じをうけとる感覚器官)によって直観される。この場合時間は空間のメタファーとして捉える見方もあるが、それは『純粋理性批判』解釈の大変難しい課題である。時間、空間の一体どちらが根源的な認識様式であるかという問いに関しては、どちらかといえば時間であるという見解も純粋理性批判には見出される。西洋の伝統では、事象は空間的、視覚的に捉えられる事が多いのである。仏教の時間理解は基本的に現在指向である。それは前世来世も説かなかったブッダの現世指向に起因するものらしい。転生説を容れるとしても、それは円環時間観の存在を示すことにならない。転生が、計測される同一の時間軸の上に起こるものとされていないからである。
    物事はすべて移ろい行くものであり、不変な存在などない(諸行無常)というのが仏教の根本的な認識である。アビダルマではこれを「すべての存在は極分化された一瞬にのみ存在し、瞬間毎に消滅する」(刹那滅)という思想として展開した。従って、計測される時間の外にある。
    龍樹に代表される空思想においても時間は、計測の外で現在意識を軸に考察されている(後に、大森荘厳はこの時間理解を元に独自の思索を展開していくことになった。それについては後述)。アイザック・ニュートンは自然哲学にユークリッド幾何学(および他の数学)を大幅に導入してニュートン力学を創始し、そこにおいて時間は過去から未来へとどの場所でも常に等しく進むもので、空間と共に、現象が起きる固定された舞台を成すものであると想定した体系を構築し、この固定された舞台を絶対空間および絶対時間とも呼んだ。この体系では、空間は均一で平坦なユークリッド空間であることが暗黙に仮定されている。(現代では、時空を合わせて4次元の直交デカルト座標で表すことができる、とも理解される)ニュートン力学においては時間は全宇宙で同一だが、アインシュタイン相対性理論ではそうではない。

    特殊相対性理論によれば光の速度はどの慣性系に対しても一定である。これを「光速度不変の原理」と呼ぶ。光速度不変の原理から異なる慣性系の間の時空座標の変換式が求められ、それはローレンツ変換となる。このとき、ある慣性系から見て空間上の異なる地点で同時に起きた事象は、異なる慣性系から見ると同時に起きてはいない。これを「同時性の崩れ」という。結果として、観測者に対して相対運動する時計は進み方が遅れて見える。

    一般相対性理論によれば重力加速度は等価であり(等価原理)、これらは空間と共に時間をも歪める。一般に重力ポテンシャルの低い位置での時間の進み方は、高い位置よりも遅れる。例えば惑星や恒星の表面では宇宙空間よりも時間の進み方が遅い。非常に重力の強いブラックホール中性子星ではこの効果が顕著である。ニュートン力学でも相対性理論でも、1個の質点の運動は、3つの空間座標と1つの時間座標で表される4次元空間の中の1本の連続曲線(軌跡)として表現できる。また特定の時刻に特定の場所で何かが起きるといった事象(イベント)は、この4次元空間の中の1個の点として表現できる。しかしニュートン力学では、3つの空間座標が互いに入れ替えることができるのとは異なり、時間座標は空間座標とは全く独立であり両者は完全に別のパラメータとして扱われる。一方、相対性理論ではローレンツ変換により時間座標と空間座標とが混合するので、両者を完全に独立のパラメータとして扱うことはできない。すなわちヘルマン・ミンコフスキーにより示された通り、ローレンツ変換はこの4次元空間の座標軸の回転とみなせる。この事情から、この4次元空間を時間と空間が強く一体化した「時空」だとする考えが生まれ、さらにこの考えが、重力は4次元時空の曲がりに相当するという一般相対性理論の発想につながった。この4次元空間は、ヘルマン・ミンコフスキーにより数学的に定式化されたのでミンコフスキー空間またはミンコフスキー時空とも呼ばれる。よほど光速に近い速度で移動するもので無い限り、基本的にニュートン力学の枠組みで十分な精度で計算できるので、相対性理論が登場した後でも、大半の自然科学者は普段は基本的にニュートン力学の枠組みのままで時間概念を取り扱っている。(ただし、素粒子論などを扱っている科学者は別である)

    現代の物理学の体系において、時間は物理量のひとつとして扱われている。

    特筆すべきことのひとつに、物理学分野での「プランク時間」の概念の登場がある。さる理論同士の矛盾があったが、もし光に最小単位があるという仮説を導入すれば解決することをマックス・プランクが見出し、それによって光量子の概念が認められ、それと連動して'''プランク単位系'''が生まれ、また「時間の最小単位」という概念も登場した。これが'''プランク時間'''である。ニュートン力学の登場以降も、その理論の成功や、それが人々の時間概念に与えた影響を意識しつつ、哲学的な考察は続けられていた。

  • 時間と意識の関係はどのようなものであるか(人間の意識の時間はニュートン力学の時間そのものではないことを指摘する考察)

  • 過去未来は実在するのか?

  • 変化するものが何一つない場合でも、時間はあるのか?


  • また、相対性理論によって時間概念が大きく変化したことや、宇宙論の諸仮説の中でビッグバン仮説が最有力視されるようになってくるなかで、古典的哲学のテーマとは異なるそれが最前面に出てくることにもなった。よく知られているテーマとしては以下のようなものがある。

  • 時間の矢はなぜあるのか?

  • ビッグバン以前にも時間はあったのか?未来は果てしなく続くのか?


  • こういったテーマのうち深遠で議論が多いものについては後方に独立した節を設け解説することにする。ベルクソンは時間についての理解が空間化された(空間になぞらえて考えられた)時間についての理解、認識である事を批判し、人間が経験しているのはそのような時間ではないと説いた。時計は空間化された時間の分かりやすい例である。ベルクソンは時間を「純粋持続」であるとした。ベルクソンは時間を連続体として捉えたが、バシュラールは逆にそれは瞬間連続として考えた。我々が感じる時間現象は常に現在、言い換えれば瞬間でしかないからである。記憶にある瞬間瞬間と現在瞬間が比較される時、時間概念が誕生するわけである。また、そこから瞬間瞬間をより高く深く生きる事が、よりよく時間を過ごす事となるバシュラールの思想が開花する事になる。大森荘蔵は、人が過去を思い出すとき「過去の写し」を再現しているのだと考えがちなことに注目する。大森はそのような「写しとしての過去」は錯覚であるという。

    そのような過去のモデルでは、まず写される対象としての正しい過去が存在し、それを写した劣化コピーとしての過去が記憶の中に存在するということになる。しかし大森の考えによると、過去は「想起という様式」で振り返られる中にのみ存在する。思い出されるのは写しとしての過去ではなく、過去そのものである。

    過去の記憶が正しかったかどうか考えるとき、想起という様式から離れて記憶の正誤を判定する過去は存在しない。想起同士の比較ができるのみである。

    世界五分前仮説などは過去が想起の外に存在するという前提のもとに生まれた、意味のない問題であるという。現在の我々は、時間は常に一定の速さで過ぎるものでそれに合わせて様々な現象の進行速度や周期の長さが計れる、などとつい考えてしまう傾向がある。だが観測的には我々は、ある周期現象(例えば天体の周期運動、振り子の揺れ、水晶子の振動、電磁波の振動など)の繰り返しの回数を他の現象と比較できるだけであり、何か絶対的な時間そのものの歩みを計れるわけではない。

    このような “常に一定の速さで過ぎる時間” という概念は、ガリレオ・ガリレイによる「振り子の等時性の発見」とその後の「機械式時計」の発達以降の近代において優勢になったとも言われる。それ以前には、例えば不定時法などはよく使われていた。
    場所により時間の流れる速さが異なるという考えは古代からある。例えば仏教の世界観では「下天の1日は人間界の50年に当たる」と言われている。また、一般相対性理論によると重力ポテンシャルが異なる場所では時間の流れる速さは異なるのではないかと考えられている。

    また人が感じる主観的な時間の速さは、気分、年齢等により変化する、と言われている。例えば同じ曲を流しても、安静にしていたり寝ぼけている時は速く聴こえ、激しい運動・活動の後では遅く聴こえる事がある。こうした場合、感じている時間の速さに相対的な違いがあると言える。また、子供にとっての1年と、お年寄りにとっての1年の長さでは、それまで生きてきた時間の比率で見ると違っているとも考えられる。

    生物個体生理学的反応速度が異なれば主観的な時間の速さは異なると考えられる。例えば生物間の時間感覚体感時間の相違については本川達雄の『ゾウの時間、ネズミの時間』に詳しい。時間が過去から未来へと “進む” または “流れる”、我々は過去から未来へと “進む” が逆には戻れない、というイメージを受け入れていない現代人は少ないだろう。例えば、“誰もが時間は一方向にしか流れないことに気づいている”し、“私たちは日常経験から時間が過去から未来へ流れていくことを知っている”田崎秀一「カオスから見た時間の矢―時間を逆にたどる自然現象はなぜ見られないか」(ブルーバックス)講談社 2000年4月 p18。体験的には、我々は過去の記憶は持つが未来のことはまだわからない。具体的には、日常体験する多くの現象は、それらが時間的に逆に進行するような現象は起こり得ないように見える'''不可逆現象'''または'''非可逆現象'''である。不可逆現象の例には、生物誕生成長固体である物体破壊砂糖に溶けるような溶解現象、摩擦による運動の停止、燃焼などがある。これらは不可逆変化または非可逆変化とも呼ばれる。自然科学、特に熱力学においては不可逆過程または非可逆過程という言葉がよく使われる。

    不可逆現象の事例は、ビデオ映像や映画フィルムの逆回しで説明されることが多い。例えば、“桶の底に入れた一升の米と一升の小豆の混合” を写した映画フィルムの例や、“瀬戸物店に闖入した雄牛” を写したフィルムの例や、“アルコールと水を混ぜて両者が一様に混ざっていく過程” のビデオ録画の例田崎秀一「カオスから見た時間の矢―時間を逆にたどる自然現象はなぜ見られないか」(ブルーバックス)講談社 2000年4月 p18、がある。

    この時間的非対称性を、イギリスの天体物理学者アーサー・エディントンは1927年に'''時間の矢'''と表現した。

    この時間の矢を物理法則として表したものの一つとして、熱力学第二法則がある。これは、「孤立系内のエントロピーは時間と共に増大するか変化しない」また「ある自由エネルギーの低い方へ変化する」と言い表される。これは「ある物体より熱を取り、それをすべて仕事に変えて、それ以外に何の変化も残さないようにすることは不可能である」というトムソンの原理、「低温の物体から熱を取り、それをすべて高温の物体に写し、それ以外に何の変化も残さないようにすることは不可能である」というクラウジウスの原理と同等であり、熱現象の観察事実を法則化したものである。熱力学第二法則は時間の矢の現れの一つというだけでなく、非常に多くの時間の矢を説明(ないしは置換)できる。例えば"アルコールと水を混ぜて両者が一様に混ざっていく過程"は「水とアルコールが分離した状態よりも、混ざった状態の方がエントロピーが高い(自由エネルギーが低い)ため起こる」と説明できる。そのためしばしば両者は同列に扱われる。

    ただしこの「時間の矢」ないしは「熱力学第二法則」は物理学的には必ずしも自明のものではない。時間的に逆に進行するような変化も起こり得る可逆性が厳密に成り立つような具体的マクロ現象を挙げるのは難しいが、振り子の運動や惑星公転ニュートン力学により質点の運動として表した力学系では可逆性が成り立つ。これはニュートン力学の基本公式が時間の正負を逆転しても成立する時間反転対称性を持つからである長倉三郎、他(編)「岩波理化学辞典-第5版」岩波書店 1998年2月 "可逆性"、"時間反転"。また相対性理論も同様に'''時間反転対称性'''を持つ。分子や原子の運動は量子力学電磁気学で記述できるが、これらの基本公式も同様に時間反転対称であり、このように記述された分子や原子の運動は可逆性を持つ。これは「微視的可逆性原理」と呼ばれる長倉三郎、他(編)「岩波理化学辞典-第5版」岩波書店 1998年2月 "可逆性"、"時間反転"。微視的可逆性原理からマクロ現象における不可逆性が説明できるか否かは、不可逆性問題または不可逆性逆理と呼ばれる自然科学上の、特に熱力学や統計力学上の問題である。

    不可逆性問題は統計力学的にはH定理によって説明が試みられているものの、これは「分子的混沌」などの仮定を置いており、一般に証明されたものではない。また、H定理を認めるとしても、熱力学第2法則とは統計力学的には「もし変化が進むならば、確率の大きい方(粒子のとりうる組み合わせの大きい方)に進むだろう」というものでしかない。これは未来を予測する場合に限らず、過去を逆算する場合でも「確率の大きい状態(エントロピーが高い状態)であったはず」という計算になってしまう。(つまり計算上過去から現在での過程においてはエントロピーの減少がおこっていることになる。)そのため統計力学的にも時間反転対称は破れておらず(現在をエントロピーの「谷間」として、過去未来のどちらに行こうとエントロピーは現在よりも大きくなる)何故ミクロでは時間反転対称な物理法則から熱力学第2法則(時間の矢)が生まれるのかは、現在でもよくわかっていない。

    熱力学第二法則に基づく時間の矢の説明の変わり種として「記憶を含めた生命活動はエントロピーが増大する方向にしか働かず、故にエントロピー増大則が一般には成り立っていないとしても、知的生命体の認識する世界においては常にエントロピーが増大している。時間の矢があるようにみえるのはそのためだ。」というものもある。実際コンピュータの記録(正確にいえば記録の消去)はエントロピーの上昇を伴うし、生命活動においてもエントロピーの増大を利用することで方向性を持たせている反応もある(モーター蛋白質など)。この説に従うなら、(われわれから見て)エントロピーが減少していく系も存在しうるが、その内で生じる生命は(われわれから見て)「逆回し」な生命活動を行うはずであり、当人たちにしてみればやはりエントロピーは「増大」していくことになる。

    素粒子論においてはCPT変換による物理法則の不変性がひとつのテーマとなっている。これは荷電共役変換C,空間反転P,時間反転Tの積であり、時間反転対称性が関与している長倉三郎、他(編)「岩波理化学辞典-第5版」岩波書店 1998年2月 "可逆性"、"時間反転"

    、とされ、
    、ともされるようになった。

    このような時間的非対称性とは対照的に、我々の住む物理的空間では、前後左右上下いずれの方向にも我々は移動できるし、力学において物理的空間のモデルとされるユークリッド空間は、全方位で等方的である。言い換えれば、空間は各方向軸が反転対称だが時間は反転非対称であり過去と未来の向きを入れ替えることはできない、とされる。現代人が通常考える時間やニュートン力学における時間は、無限の過去から無限の未来へ続く直線であり、これは数直線同型である。また相対性理論においても一人の観測者が感じる時間、すなわちひとつの質点に固定された時計が計る時間(固有時)は、同様に数直線と同型である。だが他の構造の時間を考えることもできる。過去と未来のどこか一点同士がつながっていれば時間の構造はとなる。この場合、歴史は全く同じ現象を何度でも繰り返すことになる。このような厳密な意味での円環時間の考えは、例えばニーチェ永劫回帰思想に見られる。「回帰の環Ring」と表現している。これはしかし、キリスト教終末論文化を批判するためにのみ持ち出されたものである。ニーチェの積極的な主張ではない。ただ、直線的終末論時間観でなければよかった。インドを含めて東洋的な、持続反復的全一的無時間でも良かった。回帰のドイツ語原語はWiederkunftだが、反復も同じくWiederkunftである。アンリ・ポワンカレにより証明されたポアンカレの回帰定理が、上記のニーチェの主張におけるような厳密な時間の繰り返しを示したと解釈する人もいる。だが、このポワンカレの定理は厳密に元の状態に戻るのではなく、元の状態の近傍に戻ると言っているだけなので厳密な時間の繰り返しを証明しているとは言えない。

    全く同じ歴史が繰り返されるのではなく各繰り返しごとに少しずつ異なるという考えもあり、その場合は円環構造というよりは螺旋構造と言える。古代インド古代ギリシャで見られるとされる円環時間の考えは、むしろこのような厳密には少しずつ異なる繰り返しであることが多いようである。

    だが「直線的時間vs円環時間」と言った場合は、上記の純粋に幾何学的構造の違いとは別に、異なる歴史観の対比を指すことが多い。すなわち「歴史と共に人類の文明は進歩し続ける」、「歴史と共に人は神の国に近づく」というような見方を表すのが直線的時間であり、「時を経ても社会は同じような形態を繰り返すだけ」、「太陽の下に終末のような新しいことは何もない」というような見方を表すのが円環時間である、と表現される。この文脈では螺旋構造の時間は「似たような状態を繰り返しつつも次第に進歩する」または「一進一退を繰り返しつつも次第に進歩する」という見方になる。

    SF作品の中には、通常の時間の流れから切り離された部分的な円環時間の中に閉じこめられる、というアイディア(ループもの)が登場するものがある。時間が無限の過去から無限の未来へ続くのではなく、始まりと終わりのある有限なものという考えもある。これは世界宇宙の始まりと終わりを考えることと同じことになる。世界各地の神話における世界の始まりについては「天地創造」や「天地開闢 (日本神話)」「天地開闢 (中国神話)」に詳しい。また世界の終わりについては「終末論」に詳しい。「宇宙論」も参照のこと。現在という時点において未来の可能性はいくつもあるが、時が過ぎればその可能性の中のひとつだけが現実化して過去となる。これが通常の時間観だが、この可能性の全てまたはいくつかが存在するとするのが分岐時間の考えである。分岐時間の構造は過去から未来へと分岐が増える樹形構造になる。分岐後は複数の異なる歴史の世界が同時進行しているのだが、これらの同時進行する世界同士を互いに並行宇宙または並行世界パラレルワールド)であると言う。

    量子力学の観測問題の解決のためのひとつの仮説である多世界解釈も分岐時間の考えを使っている。現代人が通常考える時間は連続体であり、実数で表せる。つまりいくらでも短い時間間隔が存在すると考えている。だが物質の最小単位として原子や素粒子があるように、時間にも最小単位があるのではないかとも考えられる。例えば映画フィルムのように一コマ以下の時間は存在しないという考えである。物理学ではこの最小時間間隔をプランク時間と呼ぶ。スティーヴン・ホーキングジェームズ・ハートルは1983年に発表した無境界仮説において、複素数にまで拡張した時間を計算に使用した。ここから、宇宙の始まりでビッグバン以前の時間が虚数であれば時間的特異点が解消されるとも主張した。なお、相対性理論では時間軸の単位として虚数表現''ict''を使うことがありこれを虚時間とも言うが、これは無境界仮説での虚数時間とは別のものである。 一部SF等に登場する、時間に因果律や連続性(前にある数学的意味での連続性とは異なる)は存在せずバラバラな「瞬間」が並んでいるだけ、という考え。
     因果律や連続性があるように感じるのは人間の錯覚ということになる。
     またタイムパラドックスは因果律が前提となるため、こういう時間中においてはタイムパラドックスは存在しなくなる。時間の進行を速くする、遅くする、停止するというアイディアは昔から見られる。例えば浦島太郎リップ・ヴァン・ウィンクルのように特定の場所や状況で時間の進行が異なるという昔話がある。現在の科学の用語と絡めて語られる設定としては、"相対性理論を応用して亜光速の宇宙船に乗る"、"ブラックホール等の重力ポテンシャルの異なる場所を通る"などといったものがある。時間停止については該当項目を参照のこと。

    時間そのものの進行を変える、とするものではないが、関連するテーマとして、主観的な時間が止まったり生理的な反応を遅くするという発想もある。現実の医療現場における全身麻酔状態の患者や昔話の眠れる森の美女などをそれと見なすことも可能である。SFの分野などでは、「人工冬眠」「コールドスリープ」「冷凍保存」といった設定が見受けられる。ある物体や場所など宇宙の一部分のみの時間を逆転できれば、壊れた物を元に戻したり、死人をよみがえらせたり、無くしたものを取り戻したりできる、などとされる。時間軸を空間の座標軸と同様に表現して見れば、空間を移動するのと同様に時間軸方向に自在に移動できないかというアイディアが生まれる。このアイディアの初期のものとしてはH・G・ウェルズの小説『タイムマシン』が有名である。(タイムトラベルも参照可)過去や未来の現象を直接観測することは現在知られている科学では原理的にできない。過去に起きたことや未来の可能性を知るのは、あくまでも現在の観測に基づいた推測によるのである。特に未来の直接観測は予知予言と呼ばれる。タイムトラベルとは異なり過去や未来に直接関与するのではないが、いわば情報のみをタイムトラベルさせるのだとも言える。未来の直接観測は、それを知った者の現在の行動が変わることで未来を変える可能性がある、などと考え、これは一種のタイムパラドックスを生む、などと考える人もいる。
  • 時間の比較

  • 時計(計測器具)

  • 時刻

  • 時空

  • **時空の哲学 - 科学哲学
  • 過去 - 現在 - 未来

  • タイムトラベル - タイムマシン

  • 永久


  • 地質時代 - 斉一説 - 自然の斉一性
  • アンリ・ベルクソン『時間と自由』1889年。(『時間と自由意志』とも)(翻訳は岩波文庫 2001年 ISBN 4003364597など)

  • マルティン・ハイデッガー『存在と時間』1927年。(哲学系)(筑摩書房1994年 ISBN 4480081372 ほか翻訳多数)

  • 渡辺慧『時間の歴史』東京図書、1973年

  • 渡辺慧『時』河出書房、1974年

  • 『講座 仏教思想 第1巻(存在論・時間論)』理想社、1974年 ASIN B000J9B0J2

  • ホイットロー『時間 その性質』文化放送開発センター、1976年

  • 滝浦静雄『時間』岩波新書、1976年、ASIN: B000J9AYZI (哲学系)

  • 中村秀吉『時間のパラドックス』中央公論新社、1980年

  • 土屋賢二「時間概念の原型 -プラトンとアリストテレスの時間概念」(『新岩波講座・哲学』第7巻、岩波書店、1985年 に所収。1988年版ISBN 4000102273)

  • 村上陽一郎『時間の科学』岩波書店、1986年、ISBN 4000076701

  • エマニュエル・レヴィナス『時間と他者』法政大学出版局、1986年、ISBN 4588001787 (哲学系)

  • 松田卓也二間瀬敏史『時間の逆流する世界』丸善、1987年、ISBN 4621031619

  • ゲーザ・サモン『時間と空間の誕生 蛙からアインシュタインへ 』青土社、1887年。新装版1997年 ISBN 4791755529

  • ジェレミ・キャンベル『チャーチルの昼寝 人間の体内時計の探求』青土社、1988年 ISBN 4791751167

  • 松田卓也・二間瀬 敏史『時間の本質をさぐる』講談社、1990年 ISBN 4061490052

  • スティーブン・グールド『時間の矢・時間の環 』工作舎、1990年 (地質学的時間を扱っている)

  • 本川達雄『ゾウの時間、ネズミの時間』中央公論社、1992年、ISBN 4121010876

  • 大森荘蔵『時間と自我』青土社、1992年ISBN 479175171X、1993年 ISBN 479175171X

  • 劉文栄『中国の時空論 - 甲骨文字から相対性理論まで 』東方書店、1992年、ISBN 4497923622

  • スティーヴン・カーン『時間の文化史―時間と空間の文化 1880‐1918年(上巻)』法政大学出版局、1993年、ISBN 4588021389

  • 「時間論の現在」(『現代思想』1993年3月号、青土社、所収)

  • 大森荘蔵『時間と存在』青土社、1994年、ISBN 4791753054

  • エマニュエル・レヴィナス『神・死・時間』法政大学出版局(叢書ウニベルシタス)1994年、ISBN 4588004492

  • ピーター・コヴニー他『時間の矢、生命の矢』草思社、1995年、ISBN 4794205848 (ポピュラーサイエンス)

  • 中島義道『時間を哲学する―過去はどこへ行ったのか』講談社現代新書、1996年、ISBN 4061492934

  • (著者多数)『心理的時間―その広くて深いなぞ』北大路書房、1996年、ISBN 4762820598

  • ポール・デイヴィス『時間について―アインシュタインが残した謎とパラドックス』早川書房、1997年、ISBN 4152080639 (物理系)

  • 吉田健一『時間』講談社文芸文庫、1998年、ISBN 4061976346 (文学・哲学系)

  • ジョン・グリビン『時の誕生、宇宙の誕生』翔泳社、2000年

  • 田崎秀一『カオスから見た時間の矢』講談社、2000年 (物理系)

  • 実松克義『マヤ文明 聖なる時間の書―現代マヤ・シャーマンとの対話』現代書林、2000年、ISBN 4774502049

  • 中島義道『カントの時間論』岩波現代文庫、2001年、ISBN 4006000405 (哲学系)

  • 入不二基義『時間は実在するか』講談社現代新書、2002年、ISBN 4061496387

  • ウィリアム・グラハム フーバー『時間の矢 コンピュータシミュレーション、カオス―なぜ世界は時間可逆ではないのか?』森北出版、2002年、ISBN 4627153015

  • 野矢茂樹『同一性・変化・時間』哲学書房、2002年、ISBN 488679081X

  • 粂和彦『時間の分子生物学』講談社現代新書、2003年、ISBN 4061496891

  • 真木悠介『時間の比較社会学』岩波現代文庫、 岩波書店、2003年、ISBN 4006001088

  • 松田文子『時間を作る、時間を生きる―心理的時間入門』北大路書房、2004年、ISBN 4762823554

  • 加藤周一『日本文化における時間と空間』岩波書店、2007年、ISBN 4000242482

  • 入不二基義『時間と絶対と相対と ―運命論から何を読み取るべきか』勁草書房(双書エニグマ)、2007年、ISBN 4326199172
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